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「天使の分け前」(中編) 「いぬ子を強くしてあげよう」といってもゴッドハンド大山倍達氏(空手家、故人)のように素手で牛が倒せるとかそんな意味ではない 。詳しくは前回を読んでくれ。 嘘かほんとか「親に嘘付いたこと無い」といういぬ子に自立の必要性を説く寺山修司の「家出のすすめ」を読ませたり。相談を持ち掛けられた時は必ず「面倒くさいとか危ないとかそんなの問題じゃない、要は自分が何を欲しいかだ」といった視点から答えたり。試験が終わって、実家に帰らなくてはならないいぬ子に嘘を付かせて、丸二日俺とデートしたり。それらのおかげかどうかは知らんが、いぬ子は着実に変化していったんである。 いつしかいぬ子の頭を「よしよし」ってしてあげたとき、いつまでもいぬ扱 いしないでと言われた。俺は恋人同士の「優しさ」は、必要条件であって必要十分条件ではないと思う。誰だって自分の好きな人に優しくするのは当然だ。恋人同士が甘え合う時間は不可欠だが、いつまでもそれだけじゃ二人でいる意味なんてないと思う。なればこそ、俺はこの一言を言ったいぬ子に「ウム、順調である」と思ったのだ。 実際いぬ子が変わりはじめたのは、昨年の夏過ぎからだった。具体的に言うと俺と一緒にいる時間が減った。下宿に呼んでくれなくなり、会ってもあんまり嬉しく無さそうになった。他に好きな男が出来たのか?俺が何か気に障る事をしたのか?いぬ子に電話して聞いても「良く分からない」とか「嫌いになった訳じゃない」や「考えてる事があるけど・・・」といった煮え切らないものばかりで、俺が拳法部の合宿から帰ってきた途端、一言もなく態度が変わった事で、喧嘩ばかりしていた。 今まで喧嘩など何度もしていたし、いぬ子とならば時間をかければ絶対仲直りする自信はあった。そんな喧嘩を重ねるうちにどうやらいぬ子の「考えていること」は、自分のあこがれている職業に就くために、今までサボっていた資格を取る勉強をしなくてはならないという事が分かった。いぬ子よ、よくぞここまで成長した!だが1日30時間も勉強する訳ではない。俺とまったく会えぬ訳ではあるまい?その辺を尋ねるといぬ子は「もう少し考えたい」と言って答えてくれぬのだった。 結論から言えば、俺の「強くしてあげよう」が功を奏していたのだ。それも予想以上にだ。かつていぬ子は自分の目標をやる前から「どうせ私にはムリ」と決めて掛かっていた。それが俺と付き合ううちに「やるだけやってみよう」になり、そして、「こればっかりは他人(俺)の手を借りるわけには行かない!」と思い立って、俺を避けるようになっていたのだ。実を言うと、俺はいぬ子の変化の原因を薄々は分かっていた。けれど、認めたくなかっただけのかもしれない。自分でそそのかしておいて、卑怯と言われても仕方ないが。 それから決定的な喧嘩があった。いぬ子がついに「普通の友達になりたい」と口にしたのである。男子諸君、女の子がこの「友達」を出してきたときは要注意だ。自分が好かれているのを知っていて。男が自分に優しくする事が分かっていて自分からは何も与えない距離、という意味で「友達」を使う女性に俺は会ったことがある。いぬ子はそんな子ではなかったが、その代わりにいぬ子自身が俺を振った原因を背負うことで「悪者」になりたくないだけだいう「覚悟の無さ」が見え隠れしていた。 二人とも感情にまかせた言い合いをして、絶交することになった。その言い合いの中である。いぬ子自身が切り出した別れ話とはいえ、「ナベケンに酷い事したな」と思って欲しくなかった。俺は強がりで「俺がすぐに新しい彼女作っても嫉妬すんなよな」と口にしたのである。18歳以上の男子なら俺の意図が分かると思う。いぬ子の答えはこうだった「私だってカッコイイ彼氏作ったるもん」・・・・・おい!振る方がそれ言ったらあかんやろ! 1億人のコメディアンがいたら1億そろって突っ込むこのスットコドッコイ的状況で諸君は正気を保てるだろうか?俺は出来なんだ。何故か永井豪の「デビルマン」(勧善懲悪に終わらん原作の方)でヒロインの美樹が疑心暗鬼に陥った人間の手で殺され、デビルマン不動明が美樹の生首を抱えて「人間なんて守るに値しない!」とかいう内容を叫ぶシーンを思い出した。文字通り俺の自我は崩壊してしまったのである「やっぱり俺ぁダメ人間だよ、トホホ」と繰り返しつぶやき街を歩く。トホホのホと何度も繰り返すと、そのうち言葉から意味が抜け落ちて、単なる音になってくる。気づけばトホホ・・・をやけにリズミカルにつぶやく自分が余計に嫌になってくるのである。これを他人がみたら本当に「ナベケン壊れよった」と言われただろう。 「悪者」か。思えば俺は今まで振られた女の子を悪者にしていた。女の子の中で自分の存在がどんどん小さくなってゆく。例えるならばぬるいお風呂に浸かったまま風呂の栓を抜いて、お湯が減ってゆくに従いどんどん体が冷えてくるあの感覚である。俺はその行き着く先をみる勇気がなく、女の子を「俺を裏切った悪者」にして、被害者面することで自我を保っていたんだろうな。だから新しい恋をしたときに、過剰な思い入れで女の子に負担を掛けたりしてたんだな。 >そう考えたら「いぬ子を強くする」約束も結局高校時代に付き合ってた女の子との不本意な別れ(そのうち書く)を引きずっていたのかもな。いぬ子、スマヌ。・・・もう遅すぎるか。いや、あの約束は俺の素直な気持ちだった。ならこんな形でいぬ子と終わってしまったら「いぬ子を強くする」約束だって果たしてないじゃないか。このままじゃ俺は高校時代の轍をまた踏んでしまうという事ではないか。これではいかん! (激しく続く) |