「天使の分け前」(前編)
突然だが、また失恋してしまった。2年ぶり8回目の失恋である。おおっ!こういう書き方をすると、なんだか甲子園出場校みたいでカッコイイな(よかねーよ)。 「恋多き濃い男と呼ばれてはや21年、みなさん「心に7つの傷を持つ男」(別名、失恋ケンシロウ)とかボロクソに言うてくれましたなあ。これで八つめ、ついに死兆星が見えてきましたわ。っちゅーワケで今回から数回の冒百は久しぶりの「失恋百連発」です。(無理に明るいな、俺…) いぬ子(21歳・仮名)と付き合いだしたのは2年ほど前だった。面倒なので省略するがほんっとーに「ひょん」な事がきっかけだった。で、なんで「いぬ子」なのか?人をイヌ型とネコ型に分類する話はよくあるが、いぬ子は仕草だけでなく外見から柴犬だったんである。そんだけ。付き合いだした頃のいぬ子は甘えん坊でわがままな、それこそ子犬の様に見ていて不安になってしまう女の子だった。俗に言う「守ってあげたい系」ではなかったが。ともかく本人のプライバシーもあるのでどこの誰かは書かない。 付き合いだしてしばらく経った頃、俺は金が無くていぬ 子の下宿によく飯を食いに行っていた。食いおわった後テレビなんぞを見ていると、 「えいっ♪」とか言っていぬ子が抱きついて来たりする訳なのだが、そん時にいぬ子 が「ずーっと一緒にいようね」などと口にしたんである。 (妄想開始!)・・・それは付き合って間も無いのに俺と結婚したいって事か?俺まだ学生だし長男だし婿養子は無理だし・・・一体この一言は命令?それとも愛情?(この間わずかコンマ2秒!) 「喝!」そんなんではない!いぬ子は素直に額面通りの事を言っておるの だ。ここで普通の男なら忠義の士の様に「御意っ!拙者が全力で守って進ぜよう」とか言ってその後悪代官の如くオッパイもんだりするのだろう(しねーよ)。 だが俺には「ずっと」なんて言葉はたとえ相手を喜ばせるためでも言えなんだ。いーかいいぬ子よくお聞き。恋は恋愛に、恋愛は愛に、愛は愛情に、愛情は情に、あした の情(ジョー)は真っ白な灰になって、風が吹くだけで消えてしまうのが世の常なん だよ。熱力学第二法則(※1)に基づいてどんな恋も必ず終わりが来るのだよ。どんなに好きでも俺が今日の帰り道に突然交通事故で死ぬ確率だってあるんよ。分かるか ?気づけよ! いぬ子は始めそれこそ犬のように首をかしげて聞いていたが「私と一緒は嫌なの?」と怒りだしてしまった。俺は慌ててもっと分かりやすい言葉で何度も説明して、いぬ子が理解してくれた事を確認すると、一つの約束をしたのである。「いぬ子!お前は俺に逢うまで他人を信頼できなかったと言ってたよな。でもな、俺が言うのもなんだが、いぬ子はまだ幼く、力不足だ。いつまで一緒にいられるか分からないけれど、それまでに俺がいぬ子を強くしてあげよう。俺がいなくなっても、一人ででも生きて行けるようにね…」 筋肉少女帯の名曲「香菜、頭をよくしてあげよう」そのまんまとはいえ、偽らざる精一杯の気持ちだった。もちろん、別れるまでその約束はずっと守り続けていた。 通俗なラブソングでよくある言い回しだけれど、男は楯になっちゃいけないと思う。女の子を世の中にある様々な嫌な事に近づけないためなら、重い楯になる必要なんて全くない。男が思っているほど女の子は弱くないから、身軽なままどこまでも逃げられるのだ。それにもし力及ばずに楯が壊れてしまったら・・・守られっぱなしの女の子を残して死んだとしたら・・・そう考えると「守る」だなんて幼稚で無責任な男のひとりよがりである。俺はいぬ子の武器になりたかった。ナイフでもトゲトゲ付きバットでも何でもいい、これから待ち受ける様々なことから逃げず、エイヤッと飛び掛かるための武器。そして時にはその武器で「人を傷付ける覚悟」の必要性を教えてやりたかった。早い話がいぬ子に「精神的自立」をして欲しかったのである。 果たして、いぬ子は泣き出してしまった。信じられんが「うれし泣き」だった。俺は戸惑いまくった。言葉が一言も出なかった。俺はいぬ子を抱っこして、髪をなでてやり、まだ数えて何回目かのキスをするしかできんかったのである。「結局オッパイもんでまう男と変わらんやないけ!」と突っ込んだ諸君よ、あんたはまったく正しい! 俺といぬ子の関係は「美味しんぼ」の山岡夫妻を逆にした関係、分からんか。ウォーズマンとロビンマスクの超人師弟コンビ、余計分からん気がする。ラーメンマンとモンゴルマン、そりゃ同一人物やないか!ともかくおマヌケないぬ子に俺が手を焼くような関係を想像された方もいると思う。だが、いぬ子に支えられていたのは実は俺の方だった。あまり詳しく書くと読者諸君から「平成冷血男爵」などという仇名を頂戴しそうなので書かないが、誰にでもあるように俺にも絶対明るみに出せない「業」と呼ぶべき部分がある(変態的な性癖があるとかじゃないよ、念のため)。ある日いぬ子とこれ以上付き合い続けるにはどうしてもその「業」に触れざるを得ない事があった。話さなければ別れねばならない。話した所で嫌われてしまうだろう。意を決して俺は大河ドラマ並の壮大なスケールでいぬ子に話した。最後は涙で言葉が出んかった。これで俺も冷血男爵か、さようなら大好きないぬ子、ムネンアトヲタノム・・・ 「あたし賢くないからよく分かんないけど、気にしなくていいよ。どんな健ちゃんになっても私は絶対好きだから、私の前ではカッコつけないでね」 ・・・・・・・の一言・・・・・俺@¥#は%&!*+(表現不能な感情)やはりおマヌケか?いぬ子!いや、これこそ恋する乙女のなせる技、効いた。この一言は馬場の16文キックより効いた。(全然痛そうじゃない喩えだなぁ)この一言で俺はいぬ子にやられてしまったのだ。それこそ妖怪人間がホントに人間になれちゃった気分である。恋人のいない諸君(あ、俺もか)にこれ以上ニコニコ思い出話をすると怒られそうなんで、さっさと暗い話にGOである。でも今から考えると俺といぬ子って「どとーの恋」だったよなあ。(この項続く)
(※1)エントロピー増大の法則ともいう。放っておくと熱いお茶は冷めるが、その逆はないという経験則。この考えを突き詰めると、宇宙は最後には冷め切って、星も時間もない「熱的死」を迎えることになる。 |