ナベケンの冒険百連発
「Friends Or Lovers」と言うお話(前編)
出会いとは偶然ではなく、必然なのだ。ユング心理学で共時性(シンクロニシティ)といわれる現象のように、
出会う人というのは、潜在意識下でお互いが自分にとって必要な人間を呼び合った結果がたまたま偶然という形を
取って表れただけなのである。という考え方が、俺は好きだ。
結果論だが、潜在意識が呼び寄せたと考えた方が納得できる出会いの方が多いのではないだろうか?。
良い人と出会えるのも、悪い人と出会ってしまうのも自分の心次第、会いたいと思えば、必要な人に会えない理由はどこにも無い。
いささかマンガチックだとは思うけれど。クレオパトラの鼻が…ではないが、俺にも大きな境目となる出会いがあった。
恥ずかしいので声を大にしては言えないが、 「あずさんに出会わなければ、ナベケンに彼女が出来るのはあと3年遅かっただろう」と俺は言いたい。(ムチャクチャ大になってるって)
恥ずかしついでに、俺は17まで「女の子と話せない病」だった。クラスの女の子に何か用事で話し掛けられても必要最小限の返事をそっけなくするだけだった。
当時柔道部に所属していた俺は、クラスの連中からは「硬派」な奴と思われていたようだが、実際はただ単に硬くなっていただけなのである。
小学5年の時、クラスの中でもおませな子に告白されたは良いが、どうしたら良いのか分からずそのまま逃げてしまって以来、実態を全く知らないだけに、
女の子と対峙する事に恐怖を感じていた。ひとたび口を開けばトンデモない事を言ってしまいそうだった。
それにプラスして、女の子と話すような状況になるとパブロフの犬か、はたまたイッツ・オートマティックかという具合に
ちんぽが勃起してしまうという情けない症状も持ち合わせていた。
中島らも氏はエッセイの中で「女性に対するイメージが処女性と娼婦性で二分化されていた」と書いていたが、
それをもっとややこしく、情けなくしたものだったのだろう。
あずさんと知り合ったのは、高校2年生の初夏だった。放課後練習のため武道場へ向かう途中、先輩と一緒になった。
どーでも良い事を喋りながら武道場の玄関に着き、靴を脱いでいると、一人の女の子が先輩に喋りかけていた。
先輩は柔道部の主将のくせして(笑)、人当たりの良い性格で、女の子の受けも良かったのだ。
俺と言えば、厄介ごとを避けるかのように余所を向いていたら、話の脈絡は分からないままに「うちの部員こんなのばっか(笑)」と、
ネタにされていた。少しだけ太陽が斜めになり始めた玄関にて、ころころと良く通る声で笑っていたのがあずさんだった。
その時の俺には、背の低さと髪の長さのアンバランスさが印象に残った。俺は「あ、ども、鍋島です」とか言ったような気がするがもう覚えてない。
次の日。そう、その次の日だった。ナベケン17年間で五本の指に入るであろうピンチが訪れたのは。
午前7時32分、薬師寺付近の駅を降り、ホテホテと学校に向かって歩く俺は、反対の出口から出てきたあずさんとばったり出会ってしまった。
キュピーン(効果音)ヤバい!(友達と待ち合わせているの、じゃね!とかになってくれぇ)本気でそう思っていた。
「おはよーございます」相変わらず良く通る声を掛けられ、それだけでもう動揺して言葉を失っていた。
「あ…え…その…んぐ…んで…ねぇ…」お前はドテチンかぁ!とツッコミを入れたくなる状況だが、本人にとってはのっぴきならない状況である。
学校までの道は小高い起伏を2回越える歩道の無いバス通り、歩いて30分だ。
おおうっ!こんな事ならあいつんちにあったホットドッグ・プレスの「ナンパの達人に学ぶバッチリトーク」を軟弱と切り捨てずに素直に読んでおくんだった! こんな事なら、通信販売で「これでご飯食べるだけでを幸運を呼び込むびっくりコスモ茶碗」を買っておくんだった!ガッデム!後悔先に立たず、だ。
えええっと確かこんな時に「普通」ならどうするんだったっけ?
(↑マンガやエロ本の偏った知識。それは普通じゃないよナベケン'92?)
確かこんな時って「さりげなく誉める」んだよなぁ?
(↑話の脈絡ってものを考えろよ、このマニュアル人間!)
そーだそれで行こう(おい!)、歩調を落とし少し後ろからあずさんを見て、なにやらかんざしの様な髪留めに目が行った…は良いが恥ずかしい。
「かわいい」という言葉を発するのに信じられないほどの抵抗があった。
俺は乾坤一擲「それ…かわいいんとちゃうんかなぁ?…」と声を掛けた…と思ったのだが運が悪く後方より接近してきたバスのエンジンの音に消されて、あずさんの耳には届かなかった。
一片の悪意なく「えっ? なんて言ったん?」と聞き返されるが、「何でも…ない」としか言えんかった。今となっては聞こえてなくて良かったと思う。
(死ね)(オレよ死ね!)もう横を通り過ぎるバスに飛び込たい気分だった。バスさえも俺の邪魔をするのだ。
もう良い、俺は一生女の子と話せずに、一生童貞で終わるのだ…オイオイそりゃ被害妄想ってもんだよ、
と現在の俺はツッコミを入れたくなるが、こうも間を外された俺は、話し掛けるタイミングを完璧に逸していた。
中学時代、勉強も運動もダメだった俺は「オカルトやファンタジーの知識を過剰に取り入れる」事で他人との差異化を図っていた。
世はドラクエやFFが流行り始めた頃である。訳も分からず「指輪物語」を読んでみたり、「D&D」に走ってみたり、
それで「ドラクエ? なんていうのかなぁ?リアリティが無いんだよ、あんなのお子様がやるもんじゃないの?」と通ぶって、
自我を保っていたのだ。所謂「おたく」ですな。
「俺は流行に流される通俗な奴等とは違うんだ」と孤高の意味を履き違えて、けどそのしっぺ返しがこんな形で現われようとは!
しかし本人の苦悩はつゆ知らず、全身の血液は「いざ鎌倉!」と申し合わせた義理堅き武士の如く、
下半身へと集結して行く…もう、ダッシュで逃げよう、腹が痛くなった事にしようと決意した矢先、あずさんが話し掛けてきた。
「いつもこの電車なんですか?」
今も実年齢+3歳くらいで見られる俺だが、昨日先輩と一緒だった事もあり、あずさんは俺の事を先輩だと思っていた。
結果としてそれが良かった。「あのさぁ、俺も2年なんやけど」。あずさんは笑い出し「なんや、敬語使って損したわ」。
小心者の常として、相手が笑ってくれると安心してしまう。俺も緊張が解けて、共通の知り合いの話題などで無事に学校までたどり着く事が出来たのだった。
次の日から、どちらが言い出したでもなく、俺とあずさんは駅で待ちあわせて学校まで一緒に通うようになっていた。
俺の方もびくびくしたのは初日だけで、日に日にマトモに会話が出来るようになっていったのである。
低脳なサルにも反復学習は効果がある、のたとえ通りである。
しかし、「そーいう話」が好きなお年頃の男女が密集する高校において、本人達の自覚が全く無いまま「4組のナベケンと7組のあずさんは付きあっとる」
という噂が立ち始めてしまうのだった。(この項続く)
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