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「コーヒー」 〜ナベケンの冒険百連発〜
うちの会社は週休2日、と言うのは嘘だ。土曜の夕方「わーい定時で終わったよ」とか言いながら家に帰り、風呂に入ると疲れがダバダバ出てきて、ベッドに寝転んだ、と思ったら日曜の朝だった。んで、洗濯だのそーじだのクリーニングだのと片付けて行くうちに、なんだか動けなくなってしまい、コタツに入ったまま亀のようになってた。
暑いのでコタツから出たは良いが、パソコンのあるロフトまで上がる気力などないので、こーしてモバイルギアに向かってメールを読んだりしてるのだが、
無性にコーヒーが飲みたくなってきた。風邪気味なんでクスリも飲んだところだし、もらい物のゆんけるも飲んだしなぁ…大丈夫かなぁ?まぁいいや飲んじまえ。
(一時中断…)
さて、前置きは長くなったが、俺は本当によくコーヒーを飲む。一昨年の夏など、アイスコーヒーを一日平均6杯は飲んでいた。これまた胃袋の方も丈夫で、卒論の追い込み時は一晩1リットルと言う事もざらだった。そして基本的に何も入れずに飲む。俺がこーなったのには、ちょっとした逸話があるのだ。
俺がまだコーヒーをカフェオレでしか飲む事が出来なかった中学生の頃である。俺はある運動系のクラブに所属していた。どんなクラブかは秘密である(笑)。まぁ気が向けばそのうち書くと思う。出来れば書く時が来なければ良いと思うのだがなぁ(笑)。
同じ部の同期にとーると言う男が居た。彼は小学校3年生の時に親の仕事の都合でイギリスに行ってたことがあって、帰国した4年生の時からずっと同じクラスだった。小学校の時はそれほど親しい、という訳でもなかった。中学に上がってきて、同じ部になって色々話すうちに、なんととーると俺は二人とも、小学校5〜6年のクラスで一緒だったさわさんという女の子を好きだと言うことが判明したのだ。もちろん俺達とおんなじ中学校にさわさんも来ていた。それからとーると俺は腹を割って話せると共に、あらゆる局面でお互いを意識するという妙な友情が成り立つ間柄になったのだ。今から考えると「ライバル」というものかも知れん。
当然試合とかもあるのだが、試合が終わった後、顧問の先生が部員一同を喫茶店へ連れていってくれるのが恒例だった。これがテニスや野球などの人気クラブならせいぜいジュース1本くらいだろうが、マイナー系に部員を引きとめるべく、先生も気苦労が絶えなかったのだろうな、今考えると。当時の俺にとって、喫茶店という空間自体がもう自分の生活から切り離された異次元空間で、喫茶店に居るだけで自分が大人になった様な気がしたものだ。
でも俺が注文するものといったら、ミックスジュースだとか、ホットチョコレートとか、所謂「お子様ドリンク」だった。だってそれしか飲めなかったんだもの。
しかし横を見るとどうだろうか? とーるの前に運ばれてきたのは黒い液体・・・、俺にとっては未体験ゾーンの「アイスコーヒー」なんか注文しやがっていたのだ。「負けた・・・」意味も無く俺はそう思ってしまった。注文する飲み物がどうこう、ではなく、なんかこう「魂」的に負けた気がしたのだ。しかも、当時彼が「ポリシー」と言っていた「飲み終わった後のグラス、ストローを美しく配置する」事さえも何だかハードボイルドで訳も無くカッコよく見えてしまったのだ。今考えると「ガキの背伸び」なんだけどね。
「負けられん!」当時、学校の成績、部活の成績はおろか、読んでいる本までお互い牽制しあい、背伸びしあい。そんな間柄だったから当然次の試合の後からは俺の前にもアイスコーヒーが運ばれてくるようになった。「ムムム・・・だがしかし・・・」弱いのだ!このままではとーるの後を追っただけではないか、「真似しぃ」ではないか!とーるはガムシロップとフレッシュをふんだんに入れている。これにこれに勝つには一つ!「ブラックで飲む」事だけだった。
今や当たり前の事になっているのが信じられないが、その時の俺は酔拳の老師に弟子入りするため、アルコール度数99%の秘伝老酒を一気するが如くの気負い様だった。一口飲んで俺は八名信夫のように叫びそうになった「ウヌヌ、マズイ!」しかし彼のように「もう一杯!」とはとても言えなかった(時代考証無視してます、ハイ)。口内で繰り広げられる最終戦争アルマゲドンをとーるに悟られてはならん! ブラックコーヒーを飲み干し、ハードボイルドにキメるのだ!とーるに勝つのだ!
・・・・しかし決死の努力空しく、先生に「鍋島、無理すんなよ」(笑)と言われてしまった。「先生のバカ・・・」これで張り詰めていた精神のラインを断ち切られ、それより後はコーヒーを一口飲んではお冷やを口にするという「激辛20倍カレー」を食うが如き大マヌケな有り様を晒すことになってしまった。
しかし、次もその次の試合の後も、俺はコーヒーを注文した。家でこっそりブラックコーヒーを飲む練習もした。
この努力を読者諸君はどう評価するであろうか? もし俺の机にタイムマシンがあったなら、10年前の自分の肩をポンと叩いて「バカ」と言ってやりたい。毒手拳を作る修行のようにコーヒーを飲んでは苦しむうち、美味いとは思わないが、どうにか飲めるようになった。何でそこまで?と思われる方も多かろう。
恥ずかしながら告白すると、当時の俺はこーやってしょうもない事ででも、とーるに何らかのアドバンテージを持つことが、さわさんに近づく事だと思っていたのである。どうやらそれはとーるも同じようだったらしく、程なくとーるもブラックでコーヒーを飲むようになりやがった。純粋か単なるバカか、そんな事を考えることもなく競い合い、背伸びし合った間柄も、今となっては貴重だと思う。
結局、俺もとーるもさわさんにふられた。さわさんが好きだったのは、バスケ部のスポーツ万能の男だった。だからこそまだ彼との友情は続いてるのだろうけれど。その後別々の高校に進学して俺は柔道を、彼はドラムを選んで、全く別々な道を選ぶことになった。
そして俺が「ヘンにカッコにこだわること」と「恋人ができてしまうこと」が、全く別次元にあると気づくまで数年掛かるのだが、その頃にはもう、ブラックコーヒーを美味しいと感じるようになっていたのである。
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